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あとりえ*Forétが描く、思いだすと懐かしくて 少しだけほろ苦い、胸がキュンとなるお話しの世界をお楽しみください。


雪の日の贈り物

その日は突然やって来ました。朝からチラホラ舞いだした風花が夕方にはボタン雪に変わったのです。郵便配達のネズミはマフラーを首に巻き重い荷物を担いで少し白くなり始めた森の中の小径を山へと急ぎました。袋の荷物の中身はリスから預かったたくさんのドングリ。冬仕度のクマに届けて欲しいという依頼でした。この雪のせいで冬眠が早まるかもしれません。凍える手足に何度も息を吹きかけながら山へ急ぎました。雪は止むどころかどんどん積もります。幾度も埋もれながらやっとのことクマの家に辿り着きました。「お届け物です!」大きな声に気付いてクマが扉を開けるとネズミは袋を手渡し「サインをここに…」誇らしげな顔つきで言いました。

冬じたく

寒くなってきました。山の木の葉が色づいたり町の木の葉が風に飛ばされたり、冬はすぐそこに来ています。森の仲間の中には穴にこもる者や南の方に旅立つ者も出て来ました。日に日に気温も下がってきます。うさぎさんは小さな子供達が始めての冬を暖かく過ごせるようブランケットを作ることにしました。アンゴラ叔母さんの織ってくれた生地は目が詰んでいてフワッと柔らか、これなら子供たちも暖かく過ごせそう。チクチクチクチク…一針ずつフチをかがってゆきます。一枚ごとにかがる糸の色を変えながら。うさぎさんはこんな何げない時間がとても好きでした。もう近くまで冬の足音が聞こえて来ました…

ネコとネズミ

薄明りの中を近づいて行くと、今はもう立ち上がる事も億劫なほどに年老いたネコが独り横たわっていました。かつては天井を駆け、獲物を捕ってくると、どうだ凄いだろうと言わんばかりに咥え、家人を驚かせた事もありましたが、今は物置小屋の片隅で時折入り口の方へ視線を向ける以外はずっと目を閉じておりました。「気分はどう?」「何か食べなきゃ」ハツカネズミが話しかけます。一瞬、キッと目を見開きネズミを見据えましたが、すぐに「獲物を捕れなくなったらお終いだ」力なくフッと笑って目を瞑りました。ネズミは水の入った器をそっとネコの前に置き、静かに帰ってゆきました。


ウサギの人形

「はいはい只今」…店主は、桃色のウサギの人形を丁寧に包んで箱に詰めました。そのウサギはずっと「寂しい顔すぎる」と何年も売れずに残っていたのでした。ところが何という事でしょう。店にふらっと入って来た老婦人が真っ先に手に取って言ったのです。「まあ!なんて可愛いんでしょう!」隣の老紳士をにっこり見上げると、彼もまた目を細め、うんうんと笑顔で頷きました。「孫にそっくり…別れ際はいつもこんな顔で帰っていったものですわ。あの子がもうじきお嫁さんだなんて」「あらあらそれは、お幸せですねぇ」包みを受け取ると、夫婦は人形を宝物のように抱えて店を出てゆきました。


まだかなまだかな

子供達が机の周りに一斉に集まりました。鼻をクンクンさせて「いい匂い~」と誰かが言いました。すると…「いい匂い~」と、皆が言いました。「何ができるかな」と、誰かが言うと…「何ができるかな」みんなで言いました。お母さんが小麦粉にバターをたっぷり混ぜて麺棒でのばし型に入れて焼けたらクリームを絞ってパイが完成~♪
みんな何ができるか知っているけど「なにかなぁ」「なにかなぁ」と、口々に言って待っているのでした。
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マルグリッドお婆さん

晴れた暖かい冬の日、ネズミのお婆さんは薄手のショールに膝掛けを持って公園へ出かけました。ベンチに腰掛けると大切に抱えて持ってきた箱の蓋を開き、中から何か紙のような物を取り出しました。…それは手紙。

今はもういない夫が、若い頃にくれた形見の手紙が何通も箱の中に入っていました。その中から一通を取り出して、懐かしそうに読むと、時々涙を流すこともありました。けれど、最後は微笑んで箱の蓋を閉じます。それはまるで、愛しい恋人との別れのようでした。

今日もお婆さんは大事に箱を抱えてベンチに向かいます。あの頃のキラキラ輝く思い出に出逢う為に…。


オルゴール

物置の片隅に積み上げてある古くて汚いおもちゃの中に、青いオルゴールをクマは見つけました。そのオルゴールはクマがまだ小さかった頃にお婆ちゃんが買ってくれたものでした。「こんな所に?!」クマは手を延ばして拾い上げました。「それにしても…どうしてここに?」わかりません。気になっていたけど見つからないので、いつの頃からかオルゴールの事を忘れてしまっていたのでした。クマは試しにネジを巻きました。するとオルゴールは、ギィギィと少し錆び付いた音で鳴りました。嬉しくてまたネジを巻きましたが、やっぱり錆び付いた音しか鳴りません。けれど何度も何度もネジを巻きました…

収穫に感謝

種を撒き、土掛けをし、水をたっぷりやって、芽を間引いたり、肥料をやったり、草を刈ったり、倒れないよう支柱をたててやったり。畑に水を運んだり、重いクワで耕したり、腰を屈めてシートを敷いたり、炎天下や暴風の中の作業もあります。畑の仕事は、力も手間も根気もいります。愛情が無いと、作物はすくすくと大きくなりません。そうして、やがて実が生り、収穫を迎えると大変だった事は忘れ、ただただ嬉しいのでした。「さぁ、帰ろうか」家では奥さんが夕飯の支度をして待っているはずです。西の空が真っ赤でした。ブタのお父さんは、腰をのばし汗を拭いて、神様に感謝しました。


タヌキの子

タヌキの子は友達の家からの帰りに、綺麗な赤い花を見つけました。それは、お母さんが大好きな花でした。「お母さんに摘んで帰ってあげよう!」心の中で「一本だけください」と、謝ってから持って帰りました。

ところが、お母さんは喜ぶどころか少し恐い顔になり、「ひとりで人里に行ってはいけないよ。もし見つかったら大変な事になってしまうからね」と、キッとした目で、諭すように叱ると、今度はぎゅっと抱きしめて「ありがとう、お母さんが大好きな花だったんだよね?」

優しい顔になって言いました。


クマのお母さん

息子が街の上学校に通うことになりました。都会での暮らしはどんな毎日でしょう。息子からは何も言って来ません。お母さんはとても心配でした。ちゃんと食べているか、友達は出来たか、身体を壊してはいないだろうか…と。でも、側にいて何かしてやることはできません。遠く離れた田舎で、毎日、息子の無事を祈っていました。お母さんは編み物が好きだったので、あたたかい編み物で応援してやる事が出来ると思い、その日から暖炉の前で揺り椅子に腰掛けて編み物を始めました。「マフラーにしよう、あの子が好きな青の太めの糸で…」。台所ではお父さんが晩ご飯にシチューを煮てくれています。お母さんは笑顔でマフラーを編みました。